欠片
「貴方って変わってる」
よく投げかけられる言葉。この続きは2パターンに分けられる。
A「どうしてそんなに理論的なの?」
B「どうしてそんなに感情的なの?」
全く逆の言いようだが、これはそれぞれ私の片方の側面しか知らない人間の科白。
Aは私をフリーのスナイパーだと思っているストリートの人々の言葉。
Bは私を一流企業お抱えのスナイパーだと思っている企業人の言葉。
私はその実、どちらでもない。
私はフリーのスナイパーでも企業お抱えのスナイパーでもない。
スナイパーであることだけはあっているけれど・・・
私はある一流企業重役が個人で飼っている飼い犬だ。しかも二代目。
一代目こと、通称「First」は感情的に動いた結果事故死したと聞いている。
私はFirstの代用品として作られたクローン体。
人でも機械でもない中途半端な存在。
感情も理性も中途半端にしか働かない存在。
それから考えると彼らの言っていることは正しい表現なのかも知れない。
しかし、どちらを言われても言いようのないわだかまりを覚える自分がいるのも事実だった。
「ティル」
電子の海から私を呼び戻す声がする。間違えるはずもない、主の声だ。
「すぐ行きます」
私は迷いを振り切るように頭を二、三度振ると主の待つ部屋へと向かった。
「お呼びでしょうか」
「仕事だ。と言ってもこの程度の小物では少しばかりつまらないかも知れないな」
苦笑しながら主は資料を手渡す。
私は知っている。目の前の人が本当に笑うことなど数えるほどしかないことを。
この人の目はいつも暗殺者のそれだ。この人は私にも心を解いていない。
そう思いながら私は資料に目を通す。
仕事は確かにいつもよりは遥かに簡単そうだった。しかし油断は出来ない。
この街で情報ほど信用できる物はないからだ。
「行ってまいります」
恭しく私は頭を下げ部屋をあとにした。
仕事は本当に簡単だった。
人混みの中でターゲットを殺し、人混みに紛れて逃げる。
日常生活の一環のように私はそれをこなし帰ろうとしていた。
「ティル!!」
名前を呼ばれて振り返ると見覚えのない青年。
「元気にしてたか?っていうかお前全然変わらないのな」
私の背をばんばん叩いて彼は嬉しそうに言う。
「どちら様ですか?」
彼が叩くのを止めたところで私は尋ねた。
Firstから引き継いだデータの中にも彼の姿はない、しかし彼は私を知っている。
罠か?何にしても、面識がないにも関わらず、私の名を知っているなら始末しなければならない。
「忘れちまったのかよ!?昔、一緒に遊んだカケルだよ」
カケル・・・・・・データ発見。
確かに、Firstの認識では友人と言うことになっている。しかし、顔は少年。・・・と言うことはやはり罠か
「私にそんな知り合いは居ません」
私は至近距離で銃を抜くとそのまま発砲した。
「どう・・・して・・・?」
彼は不思議そうな、それでいて悲しそうな顔をしたまま倒れた。
私は彼をそのままに主の元へと戻った。
「滞りなく終わりました」
「の、割には遅かったじゃないか」
私は主の顔を見る。
その表情はまるで全てお見通しだとでも言っているようだった。
私はため息をついて仕事の後起きた事について語った。
「そうか・・・もう三年にもなるんだな」
主はため息をついて遠くを見るように目を細めた。
その目は愛おしい物を見るような、私の前で見せたことのない目だった。
「何の話でしょうか?」
「いや、君が来て三年になるんだなと思っただけだ。ご苦労だったな」
ああ・・・Firstが死んで三年も経つのか
そして三年経っても私は彼女と同じ位置には行けないのか・・・
いや、私は飼い犬。だから私に与えられた仕事をこなすだけでいい。
何かを願ったりしてはいけないのだ。
私は代用品。物理的にあいてしまった穴を埋める為の者なのだから